昔々あるところに。 車が走っていた。おんぼろなオープンカーが、一台。
車の色は赤。かなり走っているのか、大切に扱ってないのか、実際には薄汚れた茶色。
乗っている男は、帽子を被り、煙草を吸っていた。
奇妙な雰囲気の男だった、言うなればそう、小説の中の私立探偵。とても強そうには見えないが、頼りにはなりそうである。
少年は、車に乗った男に声をかけた。
車はブレーキをかけ、大きな音を立てて止まった。
車の上の男が不思議そうな顔をして、「どうかしたのかい?」と少年に声をかけた。
少年はこう言った。「あんた、銃は持ってないか?」と、ぶっきらぼうな口調で。
男は答えた。「それはまあ、勿論。旅は危険だからね」
すると少年は希望に満ちた顔で「じゃあ、それを俺に貸してくれ、やらなきゃならないことがあるんだ」ちょっと危ないことを言いました。
男は答えず、眉間に皺を寄せ顔を歪ませました。
すると少年は「大丈夫、貸してくれたらお礼はするさ」と得意気に言いました。
男は表情をそのままに「やらなきゃいけないこと。とは、何のことですか?」
それを言われた少年は、少し鬱な表情をしながらも、自分にあった経緯を話し始めました。
少年の話はとてもとても長かったので、ここにはかいつまんで書きます。
自分はあるマフィアの家に生まれたこと。対抗組織がいること。
その対抗組織につい最近家族が殺されてしまったこと。自分はそれの復讐のために銃を借りたいと。
男を危険にさらしたりはしないこと。無論、自分は銃や格闘には長けていること。
男は何やら感心したような、それともその話を疑っているような、良く分からない表情をしながら、こう言いました「それは良いことですね。でも、君のような子供には少々危険だ、私がその対抗組織の人たちを皆殺してあげよう」そう言うと男はにこやかに笑いました。
少年は少し不機嫌そうに「それじゃあ俺が復讐したことにならない。俺に銃を貸してくれ」と言いました。
男はこう言いました「でも相手だっておとなしく殺られてくれる訳じゃないし。君だって死にたくはないだろう?」なだめるように、男は言いました。
すると少年は黙って、悔しそうな顔をしました。男が車に乗るように言うと、少年は助手席に乗りました。車はゆっくりと、がたがたと悲鳴を上げながら走っていきました。
少年は、男の車に乗ってから顔を服に埋めて不機嫌そうにしていました。そんな少年に気をかけてるのかかけてないのか、男は少年に声をかけました「さて、その人たちを何時殺しに行きます?私としては、まあ早いほうが良いのですが」さらりと、そう言いました。
少年はぼそぼそと言いました「今日の…夜」男はそれを聞くと笑顔で「分かりました」とそう言い、少年の指示どおりにがたがたとうるさく鳴く車を走らせていきました。
男はたくさんの銃器を車から取り出し、少年にも扱いやすいオートマチック・ピストルを放って渡し、それで身を護るように言いました。
必ず自分より後に来るよう注意を促すと、余り大きくもなく綺麗でもない屋敷の門にいた二人の男を死角から手榴弾をぶち込み、大きな門ごと粉みじんに吹き飛ばしました。爆薬の威力か凄かったのか、持ち主を失った手首がてん、と間抜けな音を立て転がりました。
少年は、自分が恐怖で血が引いていくのをはっきりと感じました、それでも男に突入するからしっかりついてくるよう言われると、なんとか歩を進めていきました。
男は異常なまでに強かった、少年はそう思いました。
的確で、効率的で、確実、そして無慈悲に組織の連中の頭を砕き、首を切り離し、目を潰し、心臓を打ち抜き、鮮血を散らせる。余りに無残な光景に少年は吐き気がしました、実際何度か吐きました。
その間も男は当たり前に、「自分の仕事は車のこのネジを締めることだ」と地味な仕事を誇りを持ってしているような、そんな顔でした。
そうやってたくさんの人が死んでいくのを見て、そろそろ首領の部屋の扉が見えてきました、そこには二人の屈強な男がいましたが、銃の前にはなす術無く、頭が吹き飛びました。
男が「ここにも殺す相手がいるんだね」と聞くと少年はゆっくりとうなずきました。男が鍵のかかったドアノブに大型拳銃で一発ぶっ放すと、鍵は派手に壊れ扉は簡単に開きました。開いた瞬間、男は左手に持っていた小さな銃から一発、撃ちました。
少年が部屋を覗くと、でっぷりと太った下品な顔の男と、サブマシンガンが寂しそうに床についていました。太った男――マフィアの首領は顔から涙と鼻水を流しながら言いました「た、頼む、命だけは助けてくれ、命だけは」男はそんなのお構い無しに大型拳銃から一発、ぶっ放しました。でもそれはマフィアの首領の命を奪うことはなく、右腕を使い物にならなくしたのにとどまりました。
それでもマフィアの首領は懇願を続け、助けてくれ、とか、償いはするから、とか虫のいいことを言っていました。男が更に二回、発砲しました。今度は左腕と、右足の大腿部をぶち抜き、使えなくしました。
出血量から見てもう助からないのは明白だったけれど、マフィアの首領は助けてくれと、弱々しくも言い続けていました。 男は小さく「うるさいな」と爽やかに言うと、左手の小さな銃で喉を撃ちぬきました、マフィアの首領は喋らなくなったけど、まだ生きてはいました、体が呼吸に合わせて大きく辛そうに揺れていたので良く分かりました。
男がこっちを振りかえりました、そして静かに口を開きます「やはり、君の復讐なのだから、ここから先は君にやらせるべきかもしれないな。どうする、こいつを君の手で殺すかい?」にこやかに笑っていました。
少年の手は震えていました、そしてこんな事を考えていました(「こんな危険な奴は殺したほうがいいんじゃないか?」「大丈夫、抜打ちの練習はしてる、不意をつけば一撃で殺せる」)と。
そして少年は一息吐いて、一瞬で銃を構え――銃が男の左手の小さな拳銃で吹き飛ばされ、マフィアの首領の頭が大型拳銃の一撃で弾けていました、そして男は笑って、こう言いました「やはり君のような前途有望な少年に人殺しなんてさせるものではありませんね」少年に背筋に、汗が流れ落ちました。
翌朝、空は綺麗に晴れていた。少年と男――タレントはほんの十分ほど前に街門の下でぎこちなく別れを告げたところである。
タレントは燃え尽きようとしている煙草を口から放し、地面に踏みつけて消す、そして自らの懐を探るのだが、煙草が見つからず、少々苦い顔をした。
タレントが咥える煙草が無いまま空を見上げていると、十分ほどで大きな荷物を持った女性がタレントのほうを近づいていき、曇っていたタレントの顔から濁りが消える。
「全く、あたし一人にこんなに大荷物買ってこさせないで欲しいわ」
不服気味に、栗色の長い髪の女性が言った。
タレントが苦い表情をして。
「すみませんね、ちょっとやることを見つけたもので。ところで、煙草は?」
女性は溜息を吐き。
「いい加減あんな体に悪いものやめなさいって」
と悪態を吐きながら煙草を1ダース放った。タレントは急いで開封すると、中から煙草を取り出し、慌てて咥えて一息つく。そこでこう言う。
「……1ダースだけ、ですか?」
「そうよ」
「これじゃせいぜい一日二日しか持ちませんよ、次の街まで一週間かかると言ったのはあなたでしょう!?」
「それで持たせなさいって」
冷酷なる一言に打ちのめされたタレントは肩を落としながら、口を開く。
「仕方がありません、自分で買いに行くとしましょう。どこで買ったんですか」
その言葉に女性が肩を落とし、また大きく溜息を吐く。
「……まあ、しゃーない、一緒に買いに行くわよ」
二人は肩を並べ、道を歩く。一人は嬉々とし、一人はうなだれながら。
エピローグ 「ある車上」
結局さ、あんたは何をしなきゃいけないワケ?
私より強くなりそうな相手を強くしないことさ
なんだかなあ…手っ取り早く殺せばいいじゃないの
そんな気もするんだけどね、人を殺すのは好きじゃない
あんたが良く言うわね
そうかもしれないねえ…
ま、どうせ長生きする気はないし、もうしばらくあんたに付き合うことにするわ
長生きはするにこしたことはないよ
あんたが言うことか
そうかもしれないねえ…
…
…
車、揺れるわね
そうかい、このぐらいのほうが風情があって良いと思うけどね
……もういいや、寝る
そうかい、おやすみ
…おやすみ
赤いおんぼろなオープンカーが、夜空の下で寂しげに走っていく。
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